第13回学術集会「救急医療・集中治療におけるトピックスと医療安全」をメインテーマに、救急医療・集中治療における栄養管理・経腸栄養の重要性、レジリエント・ヘルスケア、多職種連携・チーム医療のあり方について議論が交わされました。
2025年10月19日(日)、医療安全実践教育研究会第13回学術集会が会場(滋慶医療科学大学大学院)およびオンラインにて開催されました。今回は、日常診療と異なる視点や対応が要求され、安全の確保が更に重要となる実践の場である救急医療・集中治療を取り上げ、「救急医療・集中治療におけるトピックスと医療安全」をメインテーマに、様々な視点から講演、シンポジウムや一般演題発表が行われました。

学術集会は、まず飯干泰彦大会長による講演「救急医療・集中治療における腸の重要性」から開始されました。本講演では、まず「救急医療・集中治療における経腸栄養が、腸の粘液層維持に役立ち、粘液層によって維持される腸粘膜表面の酸性環境がジペプチドを中心に行われる腸でのアミノ酸吸収をサポートし、加えて管腔内の高分子物質や細菌に対する粘膜防御機構を粘液による物理的・化学的・免疫学的なバリアが維持する」ことの大切さの説明がありました。次に、「製剤上の理由から、グルタミンとアスパラギンを含まない輸液製剤のみによる栄養管理TPN(total parenteral nutrition)では、代謝的に細胞の蛋白合成を抑制するだけでなく、免疫抑制剤ラパマイシンのターゲットであるmTOR(mammalian target of rapamycin)を介する細胞内シグナルを抑制し、薬理学的にも免疫細胞の蛋白合成を短時間に抑制」することの危険性が説明されました。また、「小児の救急疾患で多い虫垂炎として紹介されてきた患児を超音波検査で精査すると、多くの症例で成長期のウイルス疾患による回盲部腸間膜リンパ節炎が含まれており、このリンパ節炎は手術の必要がないことが示されました。また、これまで手術されてきた膿瘍形成性虫垂炎のうち、多くの症例で抗生剤による保存的治療で膿瘍腔が消失し、将来的に侵襲の少ない虫垂切除ができる又は手術を必要とせず治癒する場合もある」との解説がありました。

特別講演は、滋慶医療科学大学大学院研究科長の和佐勝史教授による「医療安全の視点から見た救急医療における栄養管理の重要性」をテーマとした講演がありました。この中で、救急領域では入院時すでに重度の栄養障害を示す症例も多く、感染症や転倒の危険性を講演されました。適切な栄養管理がなされないと、全身の筋肉量が減少し、免疫能が低下し、創傷治癒が障害を受け、臓器機能の低下に陥るとの解説がありました。また、極端な低栄養患者の代表として神経性食思不振症(anorexia nervosa)の臨床経過の呈示があり、リフィーディング症候群(refeeding syndrome)の危険性やメカニズム、治療の説明をされました。
一般演題では3題の発表がありました。三浦さんからは、医師事務作業補助者を診療科ごとの管理から組織化し、業務内容を標準化・明確化し、一人で複数科の対応を行い、ジョブローテーションする試みが報告されました。福田さんからは、SpO2センサ変更によるSpO2関連アラームの発生動向の報告がなされ、アラームの減少は装着性や皮膚への追従性の向上により、センサの脱落や誤検出が減少した可能性を、SpO2下限アラームの減少はセンサの信号安定性向上によって、実際の低酸素状態以外での誤検出が減ったことを示している可能性を指摘されました。遠藤さんは、2020年の診療報酬改定により、集中治療室に「早期栄養介入加算」が新設され、算定要件として管理栄養士の配置が求められるようになり、集中治療領域における管理栄養士の役割は医療安全の観点からも重要性を増しているとされ、具体的にはリフィーディング症候群、高血糖、低栄養に伴う筋力低下(ICU-acquired weakness: ICU-AW)や経腸栄養による下痢等への取り組みを報告されました。

基調講演は、横浜市立大学附属市民総合医療センター 医療の質・安全管理部 診療教授の中村京太先生に「救急医療・集中治療とレジリエント・ヘルスケア」という論題で、1999年以降の医療安全に関する事例から、Safety-Ⅰの安全アプローチ、レジリエンス・エンジニアリング理論に基づく新しい安全マネジメントであるSafety-Ⅱについてわかりやすく、説明していただき、その双方の重要性をご教授いただきました。とりわけ、救急医療・集中治療部門では、緊急度・重症度の判断、優先順位付けの繰り返しと臓器や疾病横断的な集学的治療の重要性、多職種連携、院外のメディカルコントロールの場面における行政や消防、近隣医療機関との連携、地域を面で支える体制の重要性を説明していただき、変動する状況に対して、予測、モニター、評価を繰り返し、必要に応じて方針を修正しながら対応することで、院内外のリソースを柔軟に活用し、適応キャパシティを調整することによって、先行的に医療システムの安全向上に貢献することの意義を強調していただきました。
シンポジウムは「救急医療・集中治療におけるトピックスと医療安全」と題して、中村京太先生にご司会いただき、院内急変症例への対応、移植医療や集中治療における多職種連携、夜間救急外来における業務プロセスの分析などについて救急医療に係わる5名の方にご登壇をお願いし、様々な視点でご発表いただきました。



