設立記念学術集会 医療安全教育をめぐって活発な議論~学術集会、盛況裡に開催

―医療安全実践教育研究会が正式発足―


 医療安全実践教育研究会は、「医療安全教育の実践的方法を求めて」をテーマに、3月16日(日)に、大阪市淀川区の滋慶医療科学大学院大学で、設立記念学術集会を開催しました。大会長講演をはじめ5つの講演と6つの一般演題の発表が行われ、定員(100名)を超える約150名の聴講者は熱心に聞き入り、質疑応答も活発でした。また、研究会の世話人会を開き、学術集会を毎年開催するなど会則、運営方針を決め、研究会が正式に発足しました。




―安全文化とシステムのアプローチが重要―


 武田裕・滋慶医療科学大学院大学学長は「医療安全管理学と医療安全実践教育」と題して、大会長講演を行いました。医療安全管理学について、「現場での実践や教育・研修を行うには、学問体系が必要です。ライフサイエンスは何々であるという“Beの科学”なら、医療・ヘルスケアの科学は何々をするという“Doの科学”であり、医療安全学はまさにDoの科学として構築される」と基本的見解を示しました。

 そして、医療安全学の基本は「PDCAに基づき、医療における品質管理のプロセスを導入するべき」という持論を述べました。その上で大事なのは「医療安全を優先する“文化”と組織全体の問題として捉える“システム志向のマネジメント(安全管理)”」だとして、「システムと文化の2つのアプローチが重要なポイント」と強調しました。

 また、医療者の養成教育においては、専門職としてのテクニカルスキルを習得するための“タテ型専門教育”が行われてきたが、チーム医療など多職種連携においては「“ヨコ型の実践教育”が重要となる。コミュニケーション、チームワークなどノンテクニカルスキルを身に付ける必要がある」と述べつつ、「医療安全教育のフレームワークのもと、評価する尺度も作っていく必要がある」と課題を示しました。




―正しいプロセスによって正しい結果―


 中島和江・大阪大学医学部附属病院中央クオリティマネジメント部長は、「医療の質・安全に関する卒後実践教育へのチャレンジ」と題して、基調講演を行いました。卒前教育として、WHOのカリキュラムガイド(2011年発表)の11項目(患者安全とは、チーム医療、エラーからの教訓など)を示して、「何を教えるか。その内容と時間配分が大事」として、大阪大学での実践的な取り組みを紹介されました。

「正しいプロセスによって、正しい結果が生まれる」として、プロセス管理の重要性を説かれました。例えば、「患者の同定」では、患者本人に氏名をフルネームで名乗ってもらい、「患者とモノの照合」では、患者と情報やクスリなどモノが一致しているかの確認を徹底するなど。

 また「患者さんは最も利用されていない医療資源」として、医療安全への患者参加の必要性を説かれました。阪大病院で実践している「いろはうた」を紹介。例えば「に=二度三度尋ねる事も遠慮なく、治療の主役は患者さん」。これを導入してから、患者さんの意識が変化して、「安心して入院できます。医療者に話しやすくなった」などの評価を得ているという。




―タスクとチームワークの2つの行動は分けて教育―


 このあと、シンポジウムに移り、長谷川剛・自治医科大学附属病院医療安全対策部長は「医療安全に関する卒前・卒後実践教育の試み」と題して、講演を行いました。自治医科大の卒前教育では、「1年生対象に医療人間論を開講、講義中心ではなく、問題提起してプレゼンやディスカッションを重視。3年生は医療社会学、4年生からは病棟実習を行うが、プレとして診察手技、実践的手技も行う」などと紹介されました。

 「医療安全を推進する上で、3つの方向性を理解する必要がある」ことを強調しました。それは、エラーの発生確率を減少させる方向。医療者のパフォーマンスを改善するクオリティマネジメントの方向。説明プロセスや事故後の対応を含むコンフリクトマネジメントの方向。この3つの方向性は「個人としてのスキルとともに、病院など組織として制度的に整備する必要がある」と指摘しています。

 また、チーム医療においては、「タスク行動(目的・目標の行動)とチームワーク行動(周囲の観察)の2つの行動がある。この2つの行動はきっちり区分して教育する必要がある」と示唆しています。



―安全確保によって組織を活性化―


 米井昭智・倉敷中央病院医療安全管理室院長補佐は「全職員が参加する医療安全教育の実践」と題して、講演を行いました。同病院では2001年から医師を中心とした「一泊二日の研修会を年3回開いているが、本格的な医療安全活動は2003年の医療安全管理室の立ち上げ」に始まるという。

 セーフティマネジメント研修会では、患者対応ロールプレー、警鐘事例のRCA、基礎4ラウンド法と作業指示KYの実践を通じて「医療事故は身近にあることを知り、事故防止行動への意識を高める」のが目標だという。後期研修医以上の医師はすべて参加を義務づけている。

 チーム医療研修会では、医師、看護師、薬剤師、技師がKY、ノンテクニカルスキル、チームステップスなどによって、「リーダーシップ、コミュニケーション、チームワーク、状況認識などの理解を深める」のが目的。このほかにもメディエーション研修会など活発に行っており、「安全確保を通じて、組織の活性化を期待している」という。



―相手の立場でのコミュニケーション―


 田村由美・滋慶医療科学大学院大学教授は「臨床現場における多職種協働実践教育の現状と可能性」と題して、講演を行いました。職場での医療安全教育の実践的方法として、「IPWとIPEの概念を理解して、教育の仕掛けを作っていくことが大事」としています。

 IPE(インタープロフェッショナル・エデュケーション)は「複数の異なる領域の専門職者が連携(協働の質)してケアの質を改善(向上)するため、同じ場所で共に、お互いのことを、お互いから学ぶ機会」で、「職場での医療安全研修等は、多職種で計画段階から行うこと、計画段階で評価方法を吟味すること、内容は、現場の医療安全課題をIPEのトピックにし、課題解決に向かうために参加している多職種が相互に学びあえるよう研修のファシリテートが重要だ」という。
そして、このようなIPE研修は、「行動を伴うよう自己の意識改革(メンタルフレームの変革)の向かう学び方が重要」で、今後、職場での医療安全のIPE推進には、「IPE研修参加が関連職種の継続教育ポイントとして認められること、そのための汎用性のあるIPEプログラムを作ることが重要である」という。

 

 このあとのディスカッション、会場との質疑応答では、研修参加の方法、研修の成果、教育の評価などについて、議論が展開されました。




設立記念学術集会のプログラム

日時:2014年3月16日(日)10時30分~17時30分
会場:滋慶医療科学大学院大学
(大阪市淀川区宮原1-2-8)新大阪駅 北口(交通アクセスページへ移動する
テーマ:「医療安全教育の実践的方法を求めて」



10:30  開会  (10:00 受付開始)
・大会長講演「医療安全管理学と医療安全実践教育」
滋慶医療科学大学院大学 学長 武田 裕

11:30  基調講演
・「医療の質・安全に関する卒後実践教育へのチャレンジ」
大阪大学医学部附属病院 中央クオリティマネジメント部 部長 中島和江

12:30  休憩
13:30  シンポジウム 『医療安全教育の実践的方法を求めて』

・「医療安全に関する卒前・卒後実践教育の試み」
自治医科大学附属病院 医療安全対策部 部長 長谷川 剛

・「全職員が参加する医療安全教育の実践」
倉敷中央病院 医療安全管理室 院長補佐 米井昭智

・「臨床現場における多職種協働実践教育の現状と可能性」
滋慶医療科学大学院大学 教授 田村由美

15:30  休憩

15:45  一般演題発表

・「経口気管チューブのテープ固定法の違いによる固定力の比較」
近畿中胸部疾患センター 城戸朗子 ※

・「入院患者の転倒・転落の現状と課題:転倒・転落インシデント報告書の実態調査と多職種院内ラウンドを実施して」
大阪南医療センター 世古与子

・「針刺し損傷低減に向けた対策とその評価」
ツカザキ病院 松岡かほり ※

・「職員に対する医療メディエーション技法の研修効果と課題」
市立豊中病院 水摩 明美

・「多職種からなる救急部門へのチームステップス導入の期待」
神戸市立医療センター中央市民病院 富井啓介 ※

・「安全文化を育成する学習活動としての改善活動推進」
大阪市立大学大学院医学研究科 山口(中上)悦子 ※

※は共同発表

17:15  閉会 (17:30~ ネットワーキング・交流会)



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